GIMOTAN~about this worid~

我々が生きているこの世界を、少しずつ明らかにしていきたい。

小説・見えざるもの その一

 2011年の震災から、10年の歳月が過ぎた。被災地では再開発が進み、かつて津波に押し流された地域には、今や新しい街並みが立ち並んでいた。初めの頃こそ、除染の杜撰さや、野放図な復興プランへの批判があったが、一旦事が進み始めると、人々は新たな仕事、新たな住まいを求めて殺到していった。依然として原発の廃炉作業は続いていたが、もはや周辺地域の放射線の影響は低くなったとされ、移住先から帰還する者も増えていた。それどころか、先だって第三原発の建設計画が持ち上がり、最新鋭の絶対安全システムとしてアピールされていた。あの原発事故のリベンジをするのだと関係者の鼻息は荒かった。

 恐れられていた震災後の巨大な余震もなく、70%の確率とも言われた首都圏直下地震も起こらず、2021年の正月を迎えた日本国民は、安穏な国土を取り戻した喜びを噛みしめていた。